143.「表 入鄽垂手(にってんすいしゅ) 裏 十牛図 三 見牛」
色紙の表面(十牛 第十)と裏面(十牛 第三)が書かれています。こういう色紙の表と裏の内容が違うのは、珍しいと思います。
表面は、入鄽垂手(にってんすいしゅ)の絵で、十牛の第十です。この「鄽」とは人々が住む町のことです。「垂手」とは、人々を教え導き、救いの手をさしのべることをいいます。 佛教では 「上求菩提、下化衆生」ということをいいます。
裏面は、「十牛図 三 見牛」とあります。
「昭和二十七年七月天風会夏季鍛錬会 於 建仁寺 十牛図 三 見牛
ほ(吼)えけるを 志(し)るべにしつつ あら牛の かけ(げ)見るほどに 尋ね来(き)にけ利(り)」
盛大なる人生 第五章 大事貫徹には、以下のように述べられています。
「牧童が探し求めて、苦心に苦心をかさねて、ようやく牛の半身をみつけたところなんです。「吼(ほ)えける」というのは、鳴いたからだね。詳しく言うと、経典や語録の跡をたどり、あるいは公案、提唱とか説法というものを聞いて、おぼろげながらも本然(ほんぜん)の自性(じしょう)を何とか気がついたような気がすると同時に、この宇宙のなかにある自然の摂理(せつり)をわかりかけてきた、やや安心の道を見い出したように感じたことを暗示した絵なんだ」(盛大なる人生 第五章 大事貫徹 より)