「人間力を磨く」 木曜行修会 服部嘉夫 2018年12月13日
「人間力」の語意は人間の生命力と思います。
初めに生命力について申し上げます。
これは天風会の講習会の第一日目 心身統一法の概論に出てくる話です。
一般の人々は何故「人は病の器」「命ははかないもの」「悲しいことのみ多かりき」等と云っているのでしょうか。
釈迦は「人生苦である」「四苦八苦」と云っています。現象から見れば苦であるが、その苦から逃れる解脱の道を釈迦は説いているのです。
キリスト教は「弱きもの人間なり」と云う。人間は弱いので神様(天にまします我らの父)お助け下さいと他力的な考え方です。自己不在の依存的な考え方です。
たしかに現象的に見れば、人間は老いて、病んで、死するものです。
「生あるものは必ず滅す」と云われ、人間を含めて、生あるものは何時かわ死ぬ有限なものです。皮肉屋の哲学者ニーチェは「人間は生まれながらの死刑囚である。ただその死刑執行日が決ってない」と云っています。
しかし、本体的に云えば命とは「生きて、生きて、生きて、直向きに生き抜く力のある強いものです。
胡麻粒のように小さい大根の種を大地に蒔くと、芽を出し、蔓を延し、葉を出し、どんどん成長して、花が咲く頃は、大地に立派な大根が実っています。石垣の間からタンポポが芽を出し、花を咲せています。コンクリートで出来ている都内の高速道路の道路と壁の間から雑草がすくすくと育っています。(今年の夏甲子園で行われた全国高校野球大会で準優勝した秋田の金足農業高校は雑草軍団と呼ばれていました。たくましい生命力の譬えに使われたのでしょう。)鰯も決して弱い魚ではありません。大洋を群を成して回遊する光景は迫力あるものです。渡り鳥も何百マイルの南洋から飛んで飛んで日本へやって来ます。途中船のマストに休憩する鳥はいないでしょう。蟻も自分の何倍かのものを引く力があります。蚤も自分の300倍跳ねると云われます。
人間を含めて生きとし活きるものは、生れながらに潜在的に強い生命力を持ち備えているのです。特に万物の霊長たる人間の心の奥には潜在勢力という驚くべき絶大なる力が兼ね備っていると哲人天風先生は断言するのです。
この命の力を便宜上6つに分けますと、体力、胆力、判断力、断行力、精力、能力になります。
(1)体力・・・現象世界の生きる上で体力は大切です。気温の変化ですぐ風邪を引く人やご馳走になり少々食べ過ぎてすぐ下痢をするようでは、困ります。サラリーマンのアンケートで8割の人が体力が大切と云っています。
(2)胆力・・・肝っ玉、度胸のことですが、高いところから飛び降りたり。やくざと喧嘩することではありません。虚心、平気、ものに恐れず、臆しない気力あることです。内的外的な刺激、衝動があっても平常心を保つ事が出来る人を肚の出来た人と云われます。胆力が欠けると、イライラ、ソワソワ、オロオロと心の平静、安定を失いノイローゼの原因になります。
(3)判断力・・・テキパキと明快に適切な判断する人は人生の勝利であると云われます。運が良いか、悪いかは判断力で決ります。人生は選択(selection)の連続です。入学、進学時の学校の選択、いい友人関係を得るかどうか、就職の選択、そして人生の最大の選択は結婚です。この選択が誤ると運命が変わります。交差点に入る直前に信号が黄色になった時、進むべきか、止るべきか判断が遅れると交通事故の原因になります。
(4)判断力・・・昔から「石橋を叩いて渡る」と云いますが、叩いて大丈夫と判断しても渡らぬ人は断行力に欠けている人です。判断しても断行しなければ、考えるだけ無駄です。判断力と断行力は車の両輪の如く兼備ってなくてはなりません。
(5)精力・・・精力には肉体的精力である性力と精神的精力の二つあります。勿論性力は絶倫でなくてはなりません。性力が減退すると月を見ても、花が咲いても面白くもなければ、楽しくもありません。性力が充満している人は、肚の底から熱いものが込み上げ、何を見ても面白く、何を食べても美味しいものです。又行動力が旺盛で、いつもやる気十分な人です。
一方精神的精力がなくなると、自己統御の力、克己心(Self control)が減退します、麻雀すれば夜中じゅう麻雀しっぱなし、酒を飲めば酒、酒、酒と酒に溺れる自己にブレーキが掛からない人は精力が減退している証拠です。
外に向って作用する精力は「不撓不屈の精神」となります。朝寒かろうが、雨が降ろうか、雪が降ろうか、いつも元気に会社にスッ飛んで行く、やる気のある人です。やってやってやり抜く不屈の努力が成功をもたらすのです。物事を成就達成する人は精力絶倫の人です。
(6)能力・・・能力も肉体的能力と精神的能力に分れます。
35億年の生物の進化過程の最先端にある人間の大脳は他の動物に較べてより良く優れています。人類の大脳の新しい皮質(前頭葉)の細胞の数は約140億箇と云われ、人類の大人であれば、誰れでもその数は皆同じです。頭が良いか悪いかの差は、脳細胞の組み合せ方、使い方の訓練で差がつくと云われます。自分は駄目だと諦めず、自分の能力の可能性を充分発揮することが大切です。
もう一つの能力は肉体的能力で、手足をはじめ肉体をつかって物事をやりこなす能力です。
1)料理、茶道、華道、裁縫、手芸の器用さ
2)書道、絵画、彫刻、写真の素晴しい芸術
3)野球、サッカー、体操等 スポーツの技能
4)日本舞踊、バレー、ダンス、フィギュアスケート等 身体の線で美しく表現する
5)詩吟、歌謡、カラオケの上手さ
6)ピアノ、バイオリン、ギター等楽器を巧みに使い素晴しい演奏をする
7)設計図を書き、機械をつかって、ビルを建築し、ダム等を作る技能
8)スマートホン、アプリ、コンピュータを上手に操作する
人間には誰れしもが、このような能力を持っていますが、その出し方が分からないだけです。 訓練的に積極化すれば、能力は発揮できます。
以上、これらの6つの命の力は肉体の力と心の力に分けられます。
(1)体力は勿論、肉体の力です。
(2)胆力は、物事に動じない、度胸ですから心の力です。
(3)判断力は心で判断しますから心の力です。
(4)断行力は心で判断し行動しますから、心の力と肉体の力の両方が必要です。
(5)精力は肉体的性力と精神的精力ふぁあると申しました。
人間力は人間の命を活す原動力で肉体の力も心の力を練磨することが大切ですが、心と肉体を繋げる神経系統を安定確保する事が大切です。
天風教義は肉体の力を訓練的に積極化するため
(1)呼吸操錬
(2)統一式運動法
(3)積極体操
(4)養動法
(5)アサナ法
(6)食事の摂り方
(7)皮膚の強化法 その他色々あります。
心の力を強化する方法として
(1)潜在意識より強くする方法 観念要素更改法
(2)実在意識より強くする方法 積極観念養成法
(3)肉体の体勢を整えて、心を強化する 神経反射調節法
(4)天風式坐禅法である 安定打坐法 等
要するに、心身統一法を実践、実行する事が人間力を磨く事になります。